月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “今年も早くも…”


クリスマス前のワンクッションぽい“ハロウィン”が常態化したせいか、
11月があっと言う間に過ぎちまうって気がするのは、

 「俺だけかなぁ?」

ハロウィンがどうだったこうだったって話題がしばらく漂ってる中で、
クリスマス向けのイルミネーションとかが始まるじゃんか。
はっきり“クリスマス”とは言わない、
街路樹なんかへのとか、商店街のとかも始まってて。
それが点いてんのが すぐにも“わあっ♪”て気がつけるほど、
陽の暮れるのが一気に早くなってて。
そのっくらいから急に寒くもなって来て、
ジャンパーとかパーカーじゃあ足りねぇかな、
手套はまだ早いけど、
襟巻きはしたいかなって少しずつ寒くなってって。
木枯らし吹いて、急に何か寒くね?ってなって、
ダウンとかコートとか引っ張り出しながらカレンダー見たら、
うあ、もう来週って12月じゃんかって。

 「…あのな、ルフィ。」

別名“おやつ休憩”の中休みだからと
外の売り場から休憩室まで向かうその道すがら。
在庫置きや店員やバイトの控室があるバックヤードの手前で
壁棚へハタキを掛けていた長身の副店長へ、
そんな話を持ちかけていた小っちゃなバイトくん。
どっかのメーカーのではあるが、
クリスマスケーキのご予約は当店カウンターへと書かれたポスターもある。
おせちのご予約承りますというポスターもある。
お歳暮の発送、以下同文、
しかもそれらは結構早い時期からあったってのに。
それらを指して、今更 何をか言わんやと感じたベックマンさんだったようだが、

 “……お。”

ハタキを握る手が止まりかかったそのまんま、
視野の中に入って来た人影に気がついて、

 “はは〜ん。”

思わず浮かびかかった苦笑、
口許の禁煙パイプを上下させ、何とか誤魔化すところが おサスガで。
このまま サササッとバックヤードへ駆け込んで、
食堂 兼 購買で、蒸しまんだのお焼きだの買うもよし、
それへ自販機で買ったココアなぞ添えて、
15分か 30分かの休憩をするワケなのだが。
外の青果廻りだけじゃあなく、
今日は店内の棚補充のお手伝いもしていたらしい、
短髪のお兄さんの姿が見えたものだから。
サササッとバックヤードへ駆け込まなんだルフィさんだったらしく。
だがだが、買い物でもあればともかく、
用もないのに何を不審なと、誰ぞに見咎められるの恐れたか。
それとも、それこそ 当のお兄さんに
“何すか?”なんて 不意打ちの視線を飛ばされるのを恐れたか。

 “…女子高生か。”

エースの担当、白髭のおじさんチが
クリヅマス向けポインセチアの次はと
迎春用の葉牡丹の出荷段取りを言って来たおり。
色つきのハクサイのことか なんて言って、
場にいた皆さんを大爆笑させたほど
日頃の言動は 物おじもしない、立派にやんちゃなそれのくせに。
気に掛かるお人、見たいがその視線にはどぎまぎするなんていう、
含羞みの度合いが まあまあ可愛らしいたらなく。

 「…えと。」

ちょっとばかり斜めに構えたそのまま、
向こうを伺いつつもこっちとの話を続けようとし、

 「クリスマスケーキとは別に、
  レイリーのおっちゃんトコへってゆう
  和菓子の予約とかも受け付けてんだよな?」

 「ああ、そっちも正月用だそうだがな。」

剣道の達人らしいが、ルフィには気のいい甘味処のご隠居でしかない
老師のお名前に反応したか、

 「銀嶺庵に予約っすか?」

自分のお仕事が空いたのか、
こちらへ来かかってたところに耳慣れた名前とあって、

 “こいつはこいつで、取っ掛かりにしやがったかな?”

何ともかわいらしい含羞み合いなのへ、
再び禁煙パイプがひくりと震えた副店長。
びくくんと背条が伸びた、当店のアイドル、
パートのお母様たちのマスコット扱いのバイトくんへ。

 「お前も休憩なんだろが、一緒に談話室に行って来な。」

こっちは仕事中なんだからと、追い払った振りにして、
軽くトンッと、だが結構コツを踏んだ押し方で
坊やの小さな肩を押しやり、そこへ来合わせた誰かさんの懐ろへ
自然な間合いで軟着陸させる技を見せた副店長さん。

 『お前ね、ウチの甥っ子を煽って遊ぶなよな。』
 『あんたがやってるよりは毒もないですよ。』

あとで誰かさんからそんな苦情が出たのをあっさり受け流しつつ、
凭れかかった側はもとより、凭れられた側までも、
柄にないほど真っ赤っ赤になってた紅葉っぷりを思い出し、
そんな場で“くくく”と微笑ったことから
不敵にも程があると微妙に誤解されたのは また別のお話ですが。(笑)

 「や、あの、えと。//////////」
 「えと、さっきの話っすが、あの…。」

 レイりーのおっちゃんトコの生菓子、凄げぇ人気だもんな。
 …らしいっすね。
 あ・そか、ゾロは甘いの苦手なんか。
 苦手というか…。
 じゃあじゃあ、あのな? 上の売店で肉まん食おう。
 はい。

まだちょっと ぎくしゃく、
でも、良い具合の温かさで
それはまろやか、
嬉しくってしょうがないというのが見て取れる笑顔を
お互いへ向けている二人なものだから。

あっと言う間にやって来る12月の慌ただしさも、
お元気で乗り切れそうな“レッドクリフ”なのでありましたvv






     〜Fine〜  14.11.27.


  *いやいやもう、来週はもう師走ですよ、各々がた。
   年末も年の瀬もきっと早いんだわ、
   これじゃあ 歳とるのもあっと言う間だわ、ホンマ。
   お若い方々も、
   期末考査よりクリスマス、
   そして それへ向けてのバイトのこととか、
   もう考えてるんでしょうね。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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